M&Aレポート

SES企業のM&A動向と買収事例|売却のためのポイントを解説【2024年最新】

目次

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  1. 1. 1.SESの概要
  2. 1-1.SESとは
  3. 1-2.業界特化のSES
  4. 2.2.SES会社のM&A・買収・売却事例
  5. 2-1.コプロ・ホールディングス×ピー・アイシー
  6. 2-2.アイフリークモバイル×エスティーエーグループ
  7. 2-3.プロジェクトカンパニー×アルトワイズ
  8. 2-4.アイフリークモバイル×グラングループ
  9. 2-5.Kaizen Platform×ハイウェル
  10. 2-6.プロジェクトカンパニー×クアトロテクノロジーズ
  11. 3.3.SES会社の主な売却手法
  12. 3-1.A. 株式譲渡
  13. 3-2.B. 事業譲渡
  14. 3-3.C. 会社分割後に株式譲渡
  15. 4. 4. SESの会社・事業を売却するメリット
  16. 4-1.事業承継の実現
  17. 4-2.創業者利益の獲得
  18. 4-3.経営の安定化・事業の成長加速
  19. 4-4.従業員の待遇改善
  20. 4-5.育成環境の充実
  21. 4-6.採用力と離職率の改善
  22. 5.5. 売却価格の決め方
  23. 5-1.インカムアプローチ:
  24. 5-2.コストアプローチ
  25. 5-3.マーケットアプローチ
  26. 5-4.バリュエーションにこだわりすぎない
  27. 6. 6. SES会社を高く売却するためのポイント
  28. 6-1.経営状況の把握
  29. 6-2.買い手の求める強みの理解
  30. 6-3.エンジニアの教育体制の整備
  31. 6-4.社会保険の加入状況のチェック
  32. 7.7. SES会社を売却する際の注意点
  33. 7-1.準備期間を確保する
  34. 7-2.会社売却に伴う従業員と取引先への影響と対応策
  35. 7-3.M&A成功の鍵:デューデリジェンスの重要性と事前準備
  36. 8.8. まとめ
  37. 9.M&Aのご相談はand A company

1.SESの概要

SESとは

SES(System Engineering Service)は、コンピュータシステムやソフトウェアの開発、保守、運用業務に特化した技術者を派遣するビジネスモデルを指します。エンジニアの労働力をクライアント企業に提供する点で一般的な派遣事業と共通ですが、契約形態において重要な違いがあります。

通常の派遣事業では、派遣契約に基づき、派遣された労働者の指揮命令権は派遣先の企業に帰属します。一方、SESでは、準委任契約に基づくことが多く、指揮命令権は技術者を雇用するSES企業が保持します。その結果、SESの場合、クライアント企業は技術者に直接指示を出すことができません。

業界特化のSES

SESの中でも、特定の業界に強みを持たせてサービス展開を図る企業が増えています。以下がその具体例になります。

  • 金融業界向けSES企業
    金融業界では、高度なセキュリティ、複雑な取引処理システム、リスク管理などが重要です。金融業界向けのSES企業は、これらの要求に対応したシステム開発やセキュリティ対策に強みがあります。近年では、金融業界においてセキュリティ対策等の向上に向けた取り組みを内製により行う目的から、SES企業をグループ会社としてもつケースが見られます。
  • 製造業向けSES企業
    製造業では、生産ラインの自動化、品質管理、サプライチェーン管理などが求められます。
    近年では、製造業におけるDXの投資は微増しており、特にDX化のファーストステップとなるデジタイゼーションの重要性はますます高まっていくでしょう。
  • 医療業界向けSES企業
    医療業界では、患者データの管理、診断支援システム、電子カルテシステムなどが重要です。医療業界向けのSES企業は、これらのニーズに対応したシステムの開発や運用を行っています。
  • 小売業向けSES企業
    小売業界では、在庫管理、販売予測、顧客データの分析などがキーとなります。小売業向けのSES企業は、これらの分野でのシステム開発やデータ解析に力を入れています。
  • 通信業界向けSES企業
    通信業界では、ネットワークの安定性、データ通信の速度、セキュリティ対策などが求められます。通信業界向けのSES企業は、これらの要求に応えるための技術開発やシステム構築を専門としています。

2.SES会社のM&A・買収・売却事例

2022年から2023年に実行された、SES会社のM&A事例を紹介します。

SES事業の規模拡張を企図するM&A、DX・ITコンサル会社によるM&A、プロダクト販売会社による内製化(IT技術者確保)を目的とするM&Aなど、SES事業の活用方法、シナジーの多様化が進んでおり、今後もこの傾向は継続することが予想されます。

コプロ・ホールディングス×ピー・アイシー

  • 買い手:株式会社コプロ・ホールディングス(人材派遣)
  • 売り手:株式会社ピー・アイシー(コンテンツ制作・ソフトウエア開発)
  • 目的:高スキルのITエンジニアの受け入れや顧客網の獲得
  • スキーム:事業譲渡
  • 実施時期:2023年11月
  • 売却金額:非公表

アイフリークモバイル×エスティーエーグループ

  • 買い手:株式会社アイフリークモバイル(モバイルコンテンツ制作)
  • 売り手:エスティーエーグループ(ゲーム関連SES事業)
  • 目的:ゲーム関連などコンテンツ事業の基盤強化
  • スキーム:事業譲渡
  • 実施時期:2023年4月
  • 売却金額:非公表

プロジェクトカンパニー×アルトワイズ

  • 買い手:株式会社プロジェクトカンパニー (DX戦略立案、UI/UX改善)
  • 売り手:株式会社アルトワイズ(SES事業)
  • 目的:ITエンジニア人材の拡充などを通じて、DX支援の強化
  • スキーム:株式譲渡
  • 実施時期:2023年4月
  • 売却金額:2億3700万円

アイフリークモバイル×グラングループ

  • 買い手: アイフリークモバイル (モバイルコンテンツ、自社アプリ開発)
  • 売り手: グラングループ (SES事業)
  • 目的: IT技術者確保
  • スキーム: 事業譲渡
  • 実施時期: 2022年12月
  • 売却金額: 非公表

Kaizen Platform×ハイウェル

  • 買い手: Kaizen Platform (DX推進支援事業)
  • 売り手: ハイウェル (SES事業、デジタルプロモーション)
  • 目的: DXソリューション提供ラインナップ拡大、SES事業新規開始
  • スキーム: 株式譲渡
  • 実施時期: 2022年10月
  • 売却金額:5億3000万円

プロジェクトカンパニー×クアトロテクノロジーズ

  • 買い手: プロジェクトカンパニー (DX戦略立案、UI/UX改善
  • 売り手: クアトロテクノロジーズ (SES事業)
  • 目的: DX領域に通じたエンジニア人材の獲得
  • スキーム: 株式譲渡
  • 実施時期: 2022年10月
  • 売却金額: 株式譲渡3億8,500万円

3.SES会社の主な売却手法

A. 株式譲渡

株式譲渡は、買い手企業が売り手企業の株式を取得または譲受することを指します。

  • 主なケース
    ・売り手側が単一の事業を持っている場合
  • メリット:
    ・スピーディーな取引が可能
    ・手続きが比較的容易
    ・事業への影響が少ない
  • デメリット:
    ・株主が分散している場合、説明や説得に時間と労力がかかる
    ・譲渡企業は経営権を失う
    ・資産・負債や人材の選択が難しい

B. 事業譲渡

事業譲渡は、譲渡企業の事業の全て・または一部を譲渡することを指します。

  • 主なケース
    ・売り手側が複数の事業を持っており、そのうちの一部を譲渡する場合
    ・売り手が個人事業主の場合
  • メリット:
    ・複数事業のうち一部の譲渡が可能
    ・残しておきたい従業員を選ぶことができる
  • デメリット:
    ・時間がかかる
    ・手続きが煩雑(従業員との個別労働契約、口座・契約の巻き直しなど)
    ・株式譲渡と比較すると高い税率が課される

C. 会社分割後に株式譲渡

  • 主なケース:
    ・売り手が複数の事業を持っており、一部を譲渡する場合
    ・売り手側に余剰資産(不動産、保険積立金等)が多額にある場合
  • メリット:
    ・事業ごとの分社が可能
    ・余剰資産の切り離し可能
  • デメリット:・手続きが煩雑(法定の会社分割手続きが必要)
    ・財務・税務の手続きが複雑で時間がかかる

4. SESの会社・事業を売却するメリット

事業承継の実現

SES会社の売却によって、外部の経営者や企業に経営権の移行ができ、企業と従業員の雇用の存続が可能となります。

創業者利益の獲得

オーナーが自社の株を保有している場合、株を売却することによって、現金を獲得することができます。新規事業への資金や、リタイア後の貯蓄に充てることができます。

経営の安定化・事業の成長加速

M&Aによって資金力が安定した企業の下で運営することにより、経営の安定化を図ることができるため、事業成長の機会が増えます。また、買い手企業のリソースを活用して相乗効果を生むことで、事業運営を効果的に行うことができます。

従業員の待遇改善

大手企業の傘下に入ることにより、従業員の待遇が改善する可能性があります。

育成環境の充実

技術交流や人材育成の機会が増え、エンジニアのスキルアップが図れます。

採用力と離職率の改善

待遇の向上や知名度の上昇により、優秀な人材の採用が容易になり、離職率の低下が期待できます。

5. 売却価格の決め方

売却価格は、市場の状況や事業の成長性を基準に企業価値や株主価値を算出し、買い手との交渉によって決定します。企業価値の評価方法には、以下の三つのアプローチがあります。

インカムアプローチ:

将来的な収益性を基準にする方法です。期待される利益・CF(キャッシュフロー)・配当などを基準に、リスクを勘案して現在価値に割り引いて算定します。主なインカムアプローチには、DCF法や配当還元法、残予余乗法などがあります

コストアプローチ

純資産価値を基準にする算定方法です。貸借対照表に計上された資産の合計金額から負債の合計金額を差し引き、純資産額を算出することで企業の価値を算定します。主なコストアプローチの価格算定方法は、簿価純資産法、時価純資産法、時価純資産法+のれん代です。

マーケットアプローチ

市場価値を基準にする方法です。類似の上場企業を選定してその企業の市場価値・財務指標を参考にして算定する類似企業比較法(マルチプル法)や、過去のM&Aを参考に価格の算定を行う類似取引比較法などがあげられます。

バリュエーションにこだわりすぎない

上記の算定方法は一定の意味をなしますが、最終的な価格決定は売り手企業と買い手企業の交渉によって確定します。売り手の資産性を買い手が高く評価すれば、バリュエーションの結果よりも高い金額での売却も可能です。

6. SES会社を高く売却するためのポイント

経営状況の把握

営業利益や市場シェアなどを詳細に分析し、自社のポジショニングを把握する必要があります。赤字の場合は黒字化の見込みが立つことを目標とすべきです。獲得案件の単価、アサインするエンジニアの給与(原価)を確認し、案件ごとに粗利が出る構造にあるか、確認することから始めましょう。

買い手の求める強みの理解

例えば優秀なエンジニアやその企業のキーパーソンなど、買い手が求める強みを自社が持っているか把握することが大切です。エンジニアの組織、人財が事業価値に直結するため、エンジニアの採用力、教育体制、言語やプロジェクト経験によるスキルマップ、エンジニアの在籍年数など、エンジニアの人財価値を評価できる指標を確認し、自社の強みを把握することが重要です。また、顧客サイドにおいては、継続的な取引関係を有する顧客の性質とその数、1次請け・2次請けなどの顧客属性を把握することが有用です。

エンジニアの教育体制の整備

中長期的に優秀なエンジニアを確保できるかが評価向上の一助となるため、教育体制の整備や社内の働きやすい環境は評価の対象となる項目です。IT人材の不足が加速していく状況にある今、SES企業の買収によって人材確保を図る企業が数多く存在します。なので、SES企業で働く人材のスキルセットだけでなく、教育によって社員の能力を高めることができる環境があるかどうかが重要なポイントになってきます。

社会保険の加入状況のチェック

すべての法人および5人以上の常時従業員を雇用している一部業種を除く個人事業所は、社会保険(健康保険、厚生年金)への加入が法律で義務付けられています。正当な理由がなく未加入の場合、懲役刑や罰金刑、追徴金などが科されるおそれがありますので、法的に問題がないか確認し、未加入の場合は迅速に対処しましょう。

7. SES会社を売却する際の注意点

SES会社の売却に際しては、従業員、外部委託のエンジニア、取引先、および顧客等の利害関係者に悪影響が及ぶリスクがあり、これがトラブルの原因となることがあります。買い手企業との交渉過程やM&A成立後にも問題が生じる可能性もあります。このようなトラブルが最終的な契約締結直前にM&Aの破談を引き起こすこともあるため、トラブルを避けるためには、特定の注意点を理解し、適切な対応策を実施することが不可欠です。

準備期間を確保する

SES会社を売却するには、事前準備(企業価値の向上など)や買い手候補探し、資料作成、交渉、デューデリジェンスなど、たくさんの手続きを行う必要があります。そのため、会社を売りたいと思ってから実際に売却するまでには、相応の時間を要することが一般的です。経営者の体調悪化や業績低迷などを理由に慌てて会社を売却しようとすると、買い手が見つかる前に事業の継続が困難となり廃業になってしまうことや、安い価格で売却せざるを得なかったりする事態が考えられます。

こうした事態を防ぐためにも、早い段階で準備に着手することが大切です。

早い段階からM&Aの準備を進めることで、希望条件に合致する買い手候補を慎重に探したり、企業価値の向上に十分な時間を確保することができます。

会社売却に伴う従業員と取引先への影響と対応策

会社の売却は、買い手企業によって組織の運営方針や従業員の待遇、取引先との関係に大きな変化をもたらす可能性があります。特に、買い手企業が短期的な利益を重視する場合、顧客との長期的な関係性を犠牲にし、サービスの品質低下や不利な契約条件を招くリスクがあります。これにより、顧客からの信頼を損ねたり、従業員のモチベーションの低下を招く事態も考えられます。

従業員にとって、M&Aは職場環境や待遇の大幅な変化を意味することが多いです。売却に関する不確実性は、リストラや待遇悪化への不安を生じさせ、これが仕事へのモチベーション低下や他社への転職を考慮させる要因となり得ます。そのため、従業員や取引先などの関係者に対する慎重なコミュニケーションが必要です。

従業員や取引先の関係者を大切にする買い手企業を選ぶことが重要です。また、売却が確定した際には、従業員に対して明確かつ安心できる情報提供を行い、買い手企業との間で従業員が快適に働ける条件を事前に確約することが望まれます。これにより、不必要な不安を和らげ、従業員の安心感を保つことができます。

M&A成功の鍵:デューデリジェンスの重要性と事前準備

M&Aの成功は、買い手企業およびM&Aの専門家が行うデューデリジェンス(企業内監査)の結果に大きく依存します。このプロセスにおいては、売却先の会社に関する詳細な情報収集と分析が行われます。

デューデリジェンスによって、隠れた簿外債務やその他のマイナス要素が発見されると、M&Aの契約条件に影響が出る可能性があります。これは、会社の評価額の減額や最悪の場合、M&Aが白紙に戻るリスクを含みます。そのため、売却を検討する会社は、問題となり得るマイナス要素を事前に把握し、可能な限りこれを減らす努力が必要です。

売り手企業の協力もデューデリジェンスプロセスには不可欠です。特に、財務諸表やその他の重要な資料の準備は、M&Aの成立に大きく影響を及ぼします。売り手企業は、M&Aの専門家と密に協力し、必要な資料を整え、円滑なデューデリジェンスプロセスを支援する必要があります。

M&Aにおいては、売り手企業がデューデリジェンスにおいて潜在的な問題点を明らかにし、解決策を提供することが、希望条件に近い形での合意達成に向けて不可欠です。これにより、M&Aプロセスのスムーズな進行と、双方にとって有利な契約の成立が期待できます。

8. まとめ

この記事では、SESの概要やM&A事例、売却時のポイントなどを解説しました。

SES会社のM&Aにおいては、その活用方法・戦略が多様化していることから、提携先企業の目的を正確に把握し、自社の強みと整合するかを確認することが、将来の事業・社員の環境選びとして重要であるとともに、事業評価の最大化にも繋がるといえます。適切なマッチングと自社の価値評価の最大化の観点で、M&A仲介会社、特に事業解像度・提携戦略の解像度が高いM&A仲介会社を積極的に活用することが望ましいです。

M&Aのご相談はand A company

弊社(株式会社and A company)は東証プライム上場企業である、株式会社じげんの子会社です。じげんはこれまで26件のM&Aを実行して参りました。当事者としてM&Aを実施した経験、投資サイドの目線を活かして、どのように事業を評価するのか・強みを活かしていくのか、貴社と一緒に戦略パートナーとのマッチングを目指してまいります。

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