【2024年版】不動産業界のM&Aとは?業界動向や最新の事例を解説
目次
[表示]- 1.不動産業界とは?
- 1-1.不動産開発とは?
- 1-2.不動産管理とは?
- 1-3.不動産流通とは?
- 1-4.その他の不動産業
- 2.不動産業界全体で起きている変化とは?
- 2-1.少子高齢化
- 2-2.空き家の増加
- 2-3.採用環境の悪化
- 3.不動産業界のM&A件数の推移
- 4.なぜM&Aを検討する不動産会社が増えたのか
- 4-1.(譲渡企業)人材不足解消
- 4-2.(譲渡企業)後継者問題の解消
- 4-3.(譲渡企業)ブランド力の獲得
- 4-4.(譲受企業)不動産商材の拡充
- 4-5.(譲受企業)事業運営エリアの拡大
- 4-6.(両方)IT化への対応
- 4-7.(両方)取引先の拡大
- 5.不動産業界のM&A事例3選
- 5-1.(譲受企業)株式会社LAホールディングス×(譲渡企業)株式会社ファンスタイルHD
- 5-2.(譲受企業)株式会社日本エスコン×(譲渡企業)株式会社ピカソ
- 5-3.(譲受企業)アグレ都市デザイン株式会社×(譲渡企業)ハウスバード株式会社
- 6.評価される不動産会社の特徴
- 6-1.取得が難しい資格を持っている人が多い
- 6-2.魅力的な取引先を抱えている
- 6-3.他社には真似できない技術がある
- 7.まとめ
不動産業界は少子高齢化によって人口減少したことで空き家問題が発生していますが、同時に都市部の地価は上がり続けています。不動産業界全体で需要と供給のバランスが取りにくい状況の中で、難しい経営判断を迫られている経営者も多くいらっしゃいます。今回は不動産業界で盛り上がりを見せているM&A戦略について解説します。
不動産業界とは?
不動産とは、戸建て住宅やマンション、ビルなどの建物と土地などを指します。そして不動産業界は多種多様な建物と土地に関わる業界です。
不動産業界を大きく分けると3つになります。
- 不動産開発
- 不動産管理
- 不動産流通
この3つの分類について順に解説していきます。
不動産開発とは?
不動産開発とは新しい不動産を生み出す事業です。主にデベロッパーやハウスメーカーが不動産開発をしています。土地の取得から地権者や近隣住民の交渉を経て、新たな物件を開発します。
不動産管理とは?
不動産管理は、不動産の価値を維持するためにサポートをする事業です。オーナーの依頼に応じて、様々なサポートを提案・実施しています。特に賃貸物件の管理を行っており、入居者やオフィス空間を綺麗に保っています。
不動産流通とは?
不動産流通の役割は不動産オーナーとその不動産を買いたい、または借りたい人をつなぐことです。お客様の要望を聞き、その条件にマッチするような物件を紹介することでより取引を生むことができます。
その他の不動産業
他にも不動産をより効率的に運用する不動産コンサルティングや投資用物件専門に販売する会社も生まれています。この世に1つも同じ不動産がないからこそ様々なニーズに答えるため専門性を持った会社が多数存在します。
不動産業界全体で起きている変化とは?
そんな不動産業界は3つの課題によって、業界全体が変化しようとしています。課題とそれに対する不動産業の対策を説明していきます。
少子高齢化
大きな課題となっているのが、少子高齢化です。不動産を利用したい、買いたいという若い人たちが減り続けています。この市場規模の減少によって不動産の供給が需要を上回り、不動産の価格が下落する可能性があります。また不動産取引の数も減少するため、不動産価格と不動産取引の数、両方の面で不動産業界の売上が落ち込むことも考えられます。
統計局の調査によると2021年から2022年で東京都と沖縄県以外の都道府県の人口は減少しています。少子高齢化によってますます人口が減少していく中で、より魅力的な不動産を提供することが重要です。IoT機器の設置された住宅の開発やwi-fi設備の充実など、様々な形で不動産価値を向上させています。
空き家の増加
家を撤去するためにかかる費用は数十万円にもなります。また更地にすると固定資産税の軽減措置の対象外になるため取り壊さず、そのまま空き家となっています。
現在空き家の問題を解決を目的として、2023年4月に民法が改正され、所有者不明または管理不全の不動産に対して新たな規定が設けられました。この改正によって、これらの不動産の管理・処分が可能になりました。また2023年12月には改正空家特措法が一部改正されたことで空き家をより活用しやすくなりました。そして2024年4月には相続した土地の申請が義務化されます。
今後空き家が市場に流通しやすくなったことによって、中古物件の供給量が一気に増える可能性があります。また空き家には管理ができていない期間があるため、リフォームによって価値を復元することも必要です。そのためオーナーから持ち込まれた不動産を仲介するだけでなく、物件価値を高めるリフォームまで担当している仲介会社も出てきています。
採用環境の悪化
少子高齢化によりどの業界でも人材不足になっていますが、不動産業界は他の業界と比較しても深刻です。不動産業界は営業色が強く、他の業界に比べてIT化が遅れているため若者から敬遠される傾向にあります。
リスクモンスター株式会社が発表した第9回「就職したい企業・業種ランキング」調査にて、就職したい業種ランキングの建設・不動産業界の順位は全体14業種中12位となっています。そのため他の業種と比較しても不動産業界は人が集まりにくいです。
このような状況を解決するため、業界全体でDX化が推進されています。オンライン上で重要事項説明ができるように法律が改正されるといった追い風もあり、様々な業務でITを活用しようとしています。この動きは不動産テックと呼ばれ、集客支援、顧客対応、設計・施工、決済、価格査定など様々な業務を効率化しています。
不動産業界のM&A件数の推移
不動産業界のM&A件数は年々増加しています。図①のグラフはEDINETに提出された報告書から不動産業に絞ってM&A件数が何件あったかを示すグラフです。2020年は751件だったのに対して2023年には933件と約1.2倍も増加しました。また毎年件数が増えているように、不動産業界の経営戦略の選択肢の1つとしてM&Aが選ばれるようになってきました。
(図①: 不動産業界のM&A件数推移)
なぜM&Aを検討する不動産会社が増えたのか
M&Aを検討する不動産会社は多くなってきました。その理由は様々ですが、譲渡側と譲受側に分けて順に紹介していきます。
(譲渡企業)人材不足解消
特に地方の不動産会社ほど人材不足です。M&Aによって採用力のある不動産会社と手を組むことで、人材不足を解消することが期待できます。また組織の拡大によって起きる問題を解決することができるマネジメントスキルを持った人材を派遣してもらうこともできます。人材不足解消だけでなく、労働環境の改善など日々の業務に対応することで後回しになっていた組織体制を固めることも視野に入れながら譲渡先を検討しましょう。
(譲渡企業)後継者問題の解消
親族に跡継ぎがいない、部下の中に会社を任せられるような人がいない。このような会社の場合には、M&Aによる解決も検討してみましょう。優秀な経営人材を派遣してもらえる買い手企業であれば、後継者不在の状況を解消することができます。また専門家への初期的な相談から譲渡の契約まで1年程度で完了するため、スピード感をもって大切な会社を守れます。
(譲渡企業)ブランド力の獲得
2023年不動産業統計集によると、2021年の不動産業の法人数は368,552社であり、2002年の273,202社と比較すると20年間で1.3倍以上も会社が増えています。多くの不動産会社が生まれていることで、どれだけお客様から認知されるかが重要になってきました。知名度のある会社とM&Aによって一緒になることでブランド力を強化し、より多くのお客様を集客することができます。
(譲受企業)不動産商材の拡充
ビルの販売が強い会社、賃貸物件が強い会社、投資用物件の販売が得意な会社など不動産業界はより特定の領域で競争力を高めている会社がほとんどです。自信の得意領域ばかりを扱っていることで顧客の様々なニーズに対応できず、売上を逃しているケースもあります。すでに競合の多い不動産業界で新たに違う領域に事業を広げるのは非常に難しいです。
そのため新規事業ではなく、すでに成功している会社とのM&Aを活用することをお勧めします。M&Aによって、速やかにかつ新規事業よりも成功する確率が高い状況でより多様な顧客ニーズに応える企業にすることができます。
(譲受企業)事業運営エリアの拡大
不動産商材で特化するのではなく、地域に特化することで生き残っている会社もあります。このような会社のいる地域では、参入しても競合が強くてうまく成果が出せず、撤退する可能性も出てきます。このような地域特化の会社をM&Aすることで、対象会社が持っている地元の信頼や関係性をそのまま引き継ぐことができます。特に不動産業界は地主との関係や地元住民の協力なくして事業運営が難しい業界のため、エリア拡大目的のM&Aの影響は大きいです。
(両方)IT化への対応
譲渡企業、譲受企業どちらもIT化への対応のため、M&Aを検討する可能性があります。譲渡企業の場合は、電子決済や営業ツールなどの導入が遅れたことでアナログ的なオペレーションが続き、生産性が他の会社に比べて上がらない会社はこの目的でのM&Aを検討してみましょう。よりITツールを活用している企業とM&Aで一緒になることで、生産性を大幅に向上させることが期待できます。
また譲受企業であれば、IT人材を多く抱えている企業や不動産業界向けITツールを提供する企業とのM&Aを検討してみましょう。日常の業務を行う中で、より効率化を図るためIT技術を活用したいとなった場合、技術力のあるチームがいることでその会社にあった解決方法を生み出すことができます。またその解決方法をツール化し外販することでサービス利用が進み、売上UPが期待できます。
(両方)取引先の拡大
多くの不動産会社が直面するのが販路の拡大です。そして販路の拡大には取引先を増やす必要があります。大きなお金が動く不動産業界はお互いの信頼なくして事業は成立しません。信頼を築くには長い時間をかけてコミュニケーションをとったり、成果を上げ続けなくてはなりません。そのため取引先からすでに信頼されている企業をM&Aすることで、すでに積みあがった信頼関係から事業を展開することができます。特に重要視している未開拓の取引先とのつながりのある会社とM&Aで一緒になることで、スピード感のある事業拡大につながりやすくなります。
不動産業界のM&A事例3選
不動産業界のM&A事例を3つ紹介いたします。
(譲受企業)株式会社LAホールディングス×(譲渡企業)株式会社ファンスタイルHD
株式会社LAホールディングスは新築不動産販売から再生不動産販売、商業施設開発、高齢者住宅事業、ホテル事業、不動産賃貸まで多様な不動産事業を展開している上場企業です 。2022年11月に沖縄の不動産デベロッパーである株式会社ファンスタイルHDをM&Aすることで事業展開エリアを広げることに成功しました。特に取引先との強固な関係や沖縄県という土地や気候に特徴のある地域での開発・分譲事業に関するノウハウを得ることができました。
また株式会社ファンスタイルHDも再生不動産事業に強みのある譲受企業と一緒になったことで再生不動産事業を開始しました。新築不動産の場合は、土地の特性によって建物をどう特徴づけるかというところが肝になりますが、再生不動産は個々の建物によってリノベーションをどのように行うかを決める必要があります。そのため同じ不動産販売でも必要なケイパビリティが大きく異なるので、一朝一夕では取り組みにくい事業でした。しかし顧客はかぶるため両方取り扱えるようになるのはかなり魅力的です。すでにノウハウを持つ譲受企業を選ぶことで一気に事業範囲を広げることができ、地域特化で取引先とノウハウを多く持つ譲渡企業というwin-winのM&Aができています。
(譲受企業)株式会社日本エスコン×(譲渡企業)株式会社ピカソ
株式会社日本エスコンは不動産デベロッパー事業を行っており、特に分譲マンションの販売を得意としています。現在では日本ハムファイターズのホーム球場であるエスコンフィールドのボールパーク計画を進めている一社でもあります。この企業は2021年~2023年度の中期経営計画の中で収益構造を変えることを目標としていました。
その中で注目したのが、主に関西圏で不動産賃貸事業を運営している株式会社ピカソです。このM&Aによって売上の約15%を不動産賃貸事業に増やすことができ、分譲マンションに依存しない経営ができるように変貌しました。
(譲受企業)アグレ都市デザイン株式会社×(譲渡企業)ハウスバード株式会社
アグレ都市デザイン株式会社は戸建販売に強みを持ち、不動産情報を多く持つ企業です。ハウスバード株式会社は空き家で旅館業を運営する企業で、物件の選定から旅館業の許可取り、旅館用に物件を改築、宿泊客対応まで一貫して行っています。この会社は一般に出回っている不動産情報から物件の選定を行っていたため、いい物件を探すのが課題でした。
譲受企業が持つ不動産仲介会社とのネットワークや不動産業専門のデータベースを活用することができるようになることで、より収益性の高い物件を探すことができるようになりました。またデザインや施工技術もある譲受企業だったため、改築のバリュエーションを増やすことができるようになりました。
評価される不動産会社の特徴
M&Aは自分だけでなく、お相手がいて成り立つ戦略です。そのため自分が求める会社に評価してもらうには、自社には何があるかを認識することでより良い取引ができるようになります。ここではM&Aにおいて評価されることが多い不動産会社の特徴を3つ紹介いたします。
取得が難しい資格を持っている人が多い
不動産業界は大きなお金が動く分、知識を持っていると証明できる資格を取得している人が重要になってきます。不動産鑑定士やマンション管理士、建築士といった取得難易度が高い資格を持った社員が多くいる企業は高い評価を受けやすいです。資格を持った人が多くいれば、M&A後に仕事量が増えた場合に人材不足の問題で案件をお断りすることがなくなります。そのため効果的なM&Aができると評価されます。
魅力的な取引先を抱えている
不動産業界は信頼が重要な業界です。そのため様々な地域に展開をしていきたい企業は、M&Aによってすぐに関係値を築くことができない魅力的な取引先にアプローチすることを考えます。自社で普段から関係が続いている取引先は他社からみれば、魅力的な取引先です。自社の能力だけでなく、関係が続いている取引先にも注目してみましょう。
他社には真似できない技術がある
今まで事業を運営してきたことで次第に積みあがってきた技術が出てきます。このような積み上げ型の技術は他社からみると簡単には真似できない技術です。施工技術や賃貸管理技術など建物に関連する技術は様々で顧客から評価される技術は、お相手の企業にとってM&Aで一緒に事業をしたいと思われる材料になります。M&Aを検討する際には、まず自社の持っているリソースからアピールできるところがないかを整理してみましょう。
まとめ
不動産業界全体で起きている変化によってM&Aという戦略が重要になってきたことを解説してきました。多くのメリットを得る可能性のあるM&Aという選択肢をぜひ自分の会社に当てはめて考えてみましょう。
不動産業界でM&Aが盛り上がりを見せている中、自社でもM&Aができるかお悩みではないでしょうか。締結までの流れも難しく、手を出しにくいと考える方は多くいらっしゃいます。自分の会社がどのような企業と、いくらでM&Aができるのか、そのような疑問をお持ちの方は、まずは事業理解力のある仲介会社へ相談することから始めましょう。不動産業界のM&Aなら、私たちand A companyに是非ご相談ください。